ステビアの安全性について

ステビア甘味料の定義

ステビア甘味料は菊科植物"ステビア"(Stevia rebaudiana BERTONI)の葉を原料とし、そこから水で抽出・精製して得られた天然の高甘味度甘味料です。主要4配糖体(ステビオシド、レバウジオシドA,レバウジオシドC,ズルコシドA)含有量 80%以上のものを "ステビア抽出物"と言います(1)。
なお"酵素処理ステビア(α-グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビア)"は"ステビア抽出物"に糖転移酵素を作用させて得られたものです(1)。

ステビア抽出物の安全性

1.急性毒性試験
ステビオシド(経口)のLD50はマウス、ラット、ハムスターで8.2g/kg以上であり、ステビオシドが低毒性であることを示しています(3)。
2.変異原性試験
Ames試験,小核試験,コメットアッセイ
ステビオールの変異原性試験ではIn vitro前進突然変異試験等の代謝活性化のケースにDNA損傷性及び染色体異常が報告されていますが、In vitro のAmes, DNA修復試験,、及びInvivo のマウス、ラット、ハムスターの小核試験でいずれも陰性の結果が出ています(Table1)。
また高感度の変異原性試験であるコメットアッセイ(多臓器アルカリSCG法)をIn vitro 1機関、In vivo 3機関で実施しました(22)。In vitro試験はステビオールについてヒトリンパ芽球細胞株を用いて行い、代謝活性化系の有無に関わらずステビオールはDNA損傷誘発性を示しませんでした。In vivo試験では、2機関で実施したステビオール2例、ステビア抽出物(市販品)1例のマウスへの500,1000,2000mg/kg投与は、試験した臓器全てでDNA損傷性を示しませんでした(22)。一方、ステビオールを用いた1機関の試験では1臓器(結腸粘膜)に弱い陽性反応が認められました。しかし、他の2機関では同一臓器で陰性である事、国内外の小核試験で陰性の結果が出ていること、発がん性試験においても がん原性が見られないこと等から、最終的に、肝臓、腎臓、結腸等試験した臓器いずれにおいてもDNA損傷性を示さない、あるいは示すとしても問題となるものではないことが確認されました(平成13年11月、「薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 毒性・添加物合同部会」)(21)。
3.繁殖毒性試験
繁殖毒性では明石ら、森らがラットで、YodyingyuadVらがゴールデンハムスターを用いてそれぞれ試験し、妊娠率、交配率等に影響の無いことを報告しています(Table2)。
4.亜急性/慢性毒性/がん原性試験
慢性毒性,がん原性については山田ら、L.Xiliら、豊田らがそれぞれ2年間に渡る試験を実施し、いずれも明確な毒性作用なし、発がん性を認めないと報告しています(Table3)。酵素処理ステビアについては13週間、5%混餌投与試験(亜慢性毒性試験)で、毒性と思われる所見なしと報告されています(Table 3)。
5.催奇性試験
催奇形性では宇佐見らがステビオシドを用い、Wasuntarawatらがステビオールを用いて試験し、ステビオシド、ステビオールに催奇形性作用の無いことを報告しています(Table4)。
6.代謝・吸収試験
試験した全ての配糖体甘味成分(ステビオシド、レバウジオシドA,レバウジオシドC,ズルコシドA)は配糖体のままでは腸内では吸収されず、腸内細菌叢によって徐々にアグリコンであるステビオールに分解され吸収されること、またステビオールは最終代謝物で、これ以外の代謝物は生成せず、さらにステビオールはヒト肝臓においてほとんど代謝を受けないことが報告されています。同様に、酵素処理ステビアも、先ず、元のステビア抽出物に戻り、その後はステビア抽出物と同じ経路をたどって吸収・代謝されることが報告されています。
(ア)ステビアのヒト腸内細菌叢代謝試験
小山らがプールヒト糞便で種々のステビアサンプルをインキュベーションし、被検物質の減少と生成物の同定、及び変化を調べ報告しています(23)。ステビオシド、レバウジオシドAをそれぞれ別々にインキュベーションすると0.2mg/mL濃度では24hrで完全に消失し相当するステビオールの生成が見られました。4成分混合物(ステビオシド、レバウジオシド A,レバウジオシドC,ズルコシドA)のインキュベーションではステビオシドは0.2mg/mLでは8hrで消失し10mg/mLでは24hrで消失しました(Fig1)。
一方レバウジオシドAは0.2mg/mLでは24hrで消失しましたが10mg/mLでは24hr経てもほとんど変化しませんでした(Fig1)。レバウジオシドCは糖の分岐構造がレバウジオシドAに似ていますが0.2mg/mL 10mg/mLの両方とも24hrで完全に消失しプールヒト糞便ではステビオシドに近い分解を受けることがわかりました。ステビオールをプールヒト糞便でインキュベーションした場合、24hr後も変化が無くステビオールはヒト腸内細菌叢で代謝を受けないと考えられました(Fig2)。 種々のステビアサンプルのヒト腸内細菌叢での判明した分解経路は以下の通りです。ステビオシドは13位に結合したソホロシル基の末端の糖(グルコース)が切れ、ルブソシドが生成し、その後は2つの径路、一つは13位の残りの糖の分解、また一つは19位のエステルの加水分解を経てステビオールへ分解します。 レバウジオシドAの場合には主たる分解径路はステビオシドを経由する径路であり、またマイナーな径路としてレバウジオシドBを経由する径路があります(Fig3)。 α―グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビアの場合には、新たに付加した糖は容易に外れ元のステビオシド、あるいはレバウジオシドーAに戻り、その後は既に示された径路でステビオールへ分解します(Fig4)。
(イ) ステビオールのin vitro肝代謝試験
小山らはステビオールのヒト肝ミクロソームにおける代謝を調べるとともに、ラット肝ミクロソームでの代謝と比較し、ヒトとラットでは肝ミクロソームにおける酸化代謝の定性的なプロフィールにほとんど種差は認められないこと、活性値はヒトの方がラットに比べて極めて低いことを報告しています(24)(Fig5)。
(ウ)ステビアのラット小腸における吸収性検討−In 反転腸サック法による吸収性評価
小山らはラットの反転腸を用いてステビオールと4成分混合物の腸管膜の透過性を試験し、ステビオール、コントロールに用いたサリチル酸は容易に腸管膜を透過するが、4成分混合物はほとんど透過しないことを報告しています(24)。
(エ)ステビアのラット小腸における吸収性検討
−ステビアのラット小腸に経口投与した時の門脈血漿中ステビオールの分析−
小山らはラットに経口でステビオール、4成分混合物を投与して門脈血漿中ステビオールを調べ、先の(ア)、(ウ)のIn vitroの結果をIn vivo の系で検証・確認しています(24)。

参考文献

  • (1)第三版 既存添加物 自主規格,2002
  • (2)林裕造,既存天然添加物の安全性評価に関する調査研究−平成8年度厚生科学研究報告書-,1998
  • (3)高橋道人,ステビア抽出物の安全性,JAFAN,17,4,115-122,1997
  • (4)奥村昌也,藤田陽子,今村美喜郎,相川清,ステビオサイドの修復試験および復帰変異試験,食衛誌,19,5,486-490,1978
  • (5)石館基,吉川邦衛,祖父尼俊雄,食品添加物の変異原性試験成績,変異原性と毒性,12,82−90,1980
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ステビア業界の健全な発展を図る事を目的として設立されたステビア甘味料製造・取り扱い業者で組織する業界団体です。

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